東京都23区内の教育委員会 (東京都)
- 課題
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- 授業でICTを有効活用したい
- 教職員の負担を軽減したい
- 予算の確保に課題がある
- 導入製品・サービス
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- ICT支援員
- 自治体規模
- 30校~49校
- プロフィール
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非公開
- 印刷用資料
- ダウンロード(PDF:546KB)
- 取材日
- 2014年12月取材
都心に位置するある教育委員会では「使いやすく、管理しやすいICT環境」をコンセプトに、学校の情報化を推し進めています。
2009年度の文部科学省の学校ICT環境整備事業を活用し、全教員に一人1台のパソコン配備、校務用ネットワークの構築、教育用ネットワークの構築などを進めました。
また、独自に「教室のICT化」を考案し、「誰もが、いつでも、簡単に使用できるICT環境」を整えました。整備したICT環境の活用をサポートする「ICT支援員」事業も、その取り組みの一つです。
教育現場でのICT活用を支える体制について、教育委員会の担当指導主事・担当者にお話を伺いました。
現場の教員目線からICT環境整備の在り方を構想
この教育委員会では、2009年に今後10年間で目指す教育の取り組みや方向性などを示した「教育ビジョン」を策定。教育目標に基づき、掲げられた3つの柱の1つである「時代の変化に対応した、子どもがいきいき学ぶ教育環境の実現」のため、学校の情報化がより一層推し進められることになりました。
「当時、他自治体のICT環境整備では、最新のパソコンやソフトウェア、電子黒板などが配備されたにもかかわらず、数年後には使われなくなるという事例が多くみられました。そして、その背景には教職員のICTリテラシーや活用能力、ICT機器、ソフトウェアやコンテンツの不足といった課題があると考えられていました。しかし、それらは一側面でしかありません。例えば、パソコンや電子黒板などのICT機器を授業で活用する場合、従来の指導計画や指導方法を変えなければならなくなることもあります。これでは、教員のモチベーションは上がらないでしょう。そこで、教育委員会では教員が自然にICTを使いたくなることを念頭に、現場の教員目線からICT環境整備の在り方を追求していきました」(担当者)。
独自のモデルを考案して現場を整備
独自に考案した「教室のICT化」について、担当者は「授業のプロである教員自身が、今まで以上に魅力的でわかりやすい授業を行うために、自発的に取り組んでもらえることを目指しました」と話します。
「教室のICT化」は、天吊り式の短焦点型プロジェクター・実物投影機・ノートパソコン・独自開発のIT教卓・黒板のホワイトボード化をセットにしたもので、機器の操作が苦手な教員でも使いこなせる構成が特長です。
「『教室のICT化』を区立小・中・特別支援学校の全教室へ展開することで、プロジェクターの台数が足りずに教室移動する時間や、配線に手間取るといった準備の負担を軽減しています。そして、ホワイトボードにプロジェクターの画面を投影し、その上にマーカーで書き込む。子供のノートを実物投影機で映し添削する。最新の電子黒板を導入して現場が戸惑うより、シンプルで簡単な操作を重視し、すべての教師が指導スタイルを崩すことなく自然に使える環境の整備を重視しました」(担当者)。
人的支援の重要性からICT支援事業にも着手
「誰もが、いつでも、簡単に使用できるICT環境」を実現させるためには、現場へのサポートが欠かせません。この教育委員会では、ICT機器やネットワークを整備すると同時に「ICT支援員」の配置も開始しました。「教員が自然にICTを使えるようにするには、現場へのサポートが不可欠です。しかし、教育委員会だけで区立学校全校に対応するのは困難です。そこで、『ICT支援員事業』に着目し、ICTの専門家による教育現場のサポート体制の構築に臨みました」(担当者)。
そこで、ICTに高い専門性を持った民間業者に業務を委託するために、入札ではなくプロポーザル方式で業者を選定しました。他自治体での実績があり、教育委員会の目指す方向性をしっかりと理解できる業者に委託することを決めたといいます。
このICT支援員事業の委託内容は、ヘルプデスク2名設置及びICT支援員6名による巡回支援体制を用意し、区立学校全校と教育委員会と教育センターに、校務用及び教育用ネットワークの活用・運用支援や問い合わせ・障害対応等のサポートを行うことです。
「支援体制の拠点となる教育センター内にヘルプデスクを設け、常時対応するその経過や結果を密に報告してもらい、巡回支援したICT支援員も巡回終了後に担当者に同じく状況を報告してもらいました。ヘルプデスク長が同席する朝会を活用して情報共有がしっかりできて、安心して任せられたのはもちろん、常に相談し合えたのも大きいと思います」(担当者)。
また、担当指導主事も「校務用ネットワーク整備を進める中、CMS型ホームページでの学校サイト作成や自発的研修の促進、意見交換の場としてSNS型の教員交流サイトの導入による支援も進めました。その運用サポートも支援員にお願いでき、大変助かりました」と支援内容を振り返ります。
教育現場と一体化してICT活用を促進
ICT支援員は、教育現場のICT活用全体をサポートしていく中、授業支援や校内研修の支援も手掛けています。その取り組みには、一人ひとりのICT支援員が「学校の一員」という意識を持って臨んでいます。教職員だけでなく児童・生徒からも気軽に声を掛けてもらえるよう、子供たちへのあいさつや積極的な声掛けを心掛けています。ICT支援員は、日々の支援の中から他校の事例やちょっとした活用のコツをスタッフ間で蓄積・共有しています。また、それらをまとめた報告書の配布など積極的に働き掛けており、授業の立ち会いの依頼も多くなっています。
現在の支援体制を維持するための目下の課題は「ICT支援員配置の予算確保」。この教育委員会では、毎年の全支援件数や授業支援の件数、支援内容についての業務レポート資料をもとに導入効果を可視化し、財源確保のための根拠材料にしています。
「教育現場への浸透が進むにつれ、最初の3年間で支援件数は減るものと想定していました。しかし、実際に運用してみると、年間支援件数は増え、2012年度が約12,800件、2013年度は約13,900件と増加し続けています。中でも、発展的な活用につながる授業支援の件数が4.3倍に。数値や教育委員会で実施するアンケート結果からも、ICT支援員の重要性や学校の満足度が高い結果が出ています。これを根拠に財源を確保し、現在の体制を維持していきたいと考えています」(担当者)。
この教育委員会では、一貫して現場の教員目線でICT環境整備の在り方を追求し、一定の成果を上げてきました。全国で教育の情報化が進むにつれ、ICT支援員などのサポート体制はより一層求められるようになります。「現場目線」でサポートする取り組みは、これから情報化に取り組む多くの自治体の参考になることでしょう。